わたしは、本研究において、ドイツ連邦共和国(西ドイツ)の戦後体制形成にはたらいた国際的影響力に関する研究を進めてきた。この研究の過程で明らかとなってきたのは、マーシャル・プランに代表されるアメリカの影響力についての従来の一般的な見方は、事態の一面を過大視したものであるということであった。すなわち、マーシャル・プランといういわば「カネの力」とその圧倒的な軍事的なパワーでもって、アメリカは西ドイツを含めた西ヨーロッパに自らが望む戦後秩序を打ち建てたという見解は、米ソ冷戦体制の出現という結果からなされたいわば後知恵という性格を多分にもっているということである。もちろん、アメリカの影響力はひじょうに大きなものであったが、そもそもアメリカがヨーロッパに対して具体的に何を望んでいたのか、その実現の可能性をどれほど真剣に探ったのか、などという論点が本格的な究明の対象となってきたとは言い難い。実際、アメリカ国内においても、冷戦開始期に明確な戦略的および戦術的構想が用意されていたわけではなかった。本研究を実施する過程で浮かび上がってきた以上のような論点は、西ドイツだけに限らず西ヨーロッパ全体をも視野に収めた戦後米欧関係の再検討を要請するものであるといえる。
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