国際関係の理論に関し、狭義の国家間(政府間)関係と広義の社会間関係のどちらに重点を置いて論述すべきかという論争が繰り広げられている。前者は武力紛争を主要形態とする権力政治モデルとして描かれることが多く、後者は多元アクター間のトランスナショナルな多イシュー・ゲームになる傾向がある。リアリズムとリベラリズムの論争も、こうした国際関係の2つのレヴェルの照準の当て方についての議論だと見なすことができる。 本研究は、1962〜67年の米国とキューバの関係を一次資料を調査することを通じて、これらの論争に一定の解答を出すことができた。つまり、米国がキューバに強制したように、権力のある政府の政治的意思決定を最大要因として、これらの2つのレヴェルの関係の設定自体が行われるということである。つまりこれまでの論争が前提としたような、2つのレヴェルの間のアプリオリな階層性は存在しない。米国・キューバ間の事例はそうしたレヴェルの転換の端的な例であり、米国政府は西半球におけるそのヘゲモニ-を2レヴェル編成の部分的接合によって再編し、冷戦における権力拡大をはかった。キューバ側は他のラテンアメリカ諸国と社会間レヴェルのトランスナショナル関係を拡大することで、生き残りをめざしたが、米国のヘゲモニ-構造はそれを許さず、67年までにほぼ総体的に社会間関係が切断されてしまう。
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