日本の市場構造をとらえるとき、よく言われてきたことは「カルテル体質」であり、「過当競争」である。前者は政府の「行政指導」や「談合」により、自由な競争が阻害されていることを示しているが、一方後者は「競争」が激しすぎるという新古典派経済学では考えにくい状況を示している。このような180度異なるとらえかたは、実は日本経済のほとんどの側面で観察されると言っても過言ではない。金融面では護送船団方式のもとでの銀行のサービス合戦が存在し、産業組織面では、長期的な契約関係によって(下請)中間財供給者はアセンブラ-により保護されているともみることができる反面、「下請イジメ」と呼ばれるように厳しい競争を強いられているとも考えられる。さらに、労働市場を考えれば平等な賃金体系のもと、労働者の「過労死」はついこの間まで重要な社会問題であった。以上の点に共通するものは、説明しやすい価格決定とサービスや努力など「見えにくいもの」との対立であり、「過当競争」は後者で起っていると言える。 本研究はこのような状況をOiらに始る非線形価格のモデルを使って分析した。金融システムに即して言えば、「行政指導」による「カルテル体質」により、「基本料金」の体系(例えば規制金利)などは保証されている。しかし「規制」からはみ出したものでの競争、すなわち「従量料金」(サービス)においては、「基本料金」におけるカルテル利益があるがゆえに激しくなることが予想されるという新しい論点を加えた。このように本研究は独占下の単純な非線形価格の理論の応用ではなく、寡占あるいはゲーム理論でいう「暗黙の共謀」理論と文書化しにくい取決めに注目した「不完全契約」理論を発展させた。「不完全共謀」の理論とも言うべきものである。
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