本研究への取り組みは以下のように行われた。 1)必要な資料・情報の収集。さし当たり鉄鋼業を中心としつつ、比較対象のための他の基礎素材産業、加工組立産業に関するものも広範に収集した。収集レートとしては、データベースの活用、業界団体や個別企業からの資料収集、製鉄所など業務の現場での見学やヒアリングなどに努力した。 2)研究報告や見学・ヒアリング記録の作成。日本のリエンジニアリングについては、ワーキングペ-パ-「A製鉄H製鉄所見学記録」を刊行した(裏面参照)。アジア鉄鋼業全体の動向については、「アジア鉄鋼業とメガ・コンペティション」など3本の研究会報告を行った。日本に先行するアメリカのリエンジニアリング研究としては、学会報告「USX社の労使関係とコ-ポレート・ガバナンス」(1996年9月21日、日本経営学会第70回大会)を行った。 3)研究論文の作成。日本とアジアについては論文作成に至っていない。アメリカに関しては、上記学会報告を同様のタイトルでとりまとめた。来年度発行される論集『現代経営学の課題』に収録される予定であり、原稿は提出済である(裏面参照)。 上記の研究活動を通じて様々な知見を得たが、最も重要な点は、特にアジアの鉄鋼業において、大量生産志向・分散型プロセスという生産システム的特性と、工業化の比較的早期に、各国の自給政策によって発展させられるという歴史的条件が競争関係を提供していることを確認した点である。アジア鉄鋼業においては、先進国のリエンジニアリング対中心国/途上国の発展という図式にとどまらず、中進国・途上国においてもリストラクチャリングが進展していること、また、ホットコイル市場での価格競争が焦点となることなどの特徴が生じている。これらの点を検証し、将来を展望することは、残された研究課題である。
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