企業間の提携プロセスを焦点にし、現場の企業人への聞き取り調査に重点をおいた定性的調査は、いわゆるシナジ-効果等の経済的合理性によって解説される企業提携戦略に新たに探求すべき側面があることを示唆した。とくに、(1)情報処理プロセス、(2)意思決定プロセス、(3)組織の思考態度(文化)、における個別バイアスが有力な要因であるという仮説が予定される。 既刊の事例資料、文献研究からは、個別企業提携の経済・経営効果の実績、経営陣の意思決定におけるバイアス、またケース・シミュレーションを活用した実証型研究において検証されているグループおよび個人の意思決定における認知的心理要因、を関係づける可能性が見出された。これは、経済学と心理学を連結する行動経済学という領域が米国において成長しているように、国際間の企業提携というきわめて今日的な経営組織現象を通じて、古典的行動科学が、現代的な意義を備えて、再構成されうる可能性を示している。 今年度の研究においては、具体的な事例収集と最新の分析視角の考察、およびシミュレーションによる意思決定傾向の分析により、将来の大型実証調査に向けての概念整理と予備的データの収集・分析を実施した。これにより、一般的な提携概念を再構築し、また大掛かりな意思決定を要求する事象に、かなり個人的あるいは恣意的要因が絡む可能性あるいはリスクが示唆された。
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