本研究の目的は、日本企業における新製品および新技術の開発プロセスの特徴を、理論的かつ実証的に研究・調査することであった。我々はこの目的の達成のために、そのような分野における日本および欧米の既存文献を考察し、かつ日本企業における技術開発のケース研究を展開した。ケース研究については、株式会社東レの協力を得、そこにおける炭素繊維の開発プロセスを丹念に分析した。 まず我々が行ったのは炭素繊維の開発プロセスの記述であり、具体的にどのようなプロセスを通じて新製品ないしは新技術開発(技術革新)が展開されるのかを吟味した。そして、その結果と既存研究において論じられている技術革新のプロセスとの比較検討を行い、炭素繊維という新素材の開発プロセスの特徴をいくつか見出した。その主たる特徴は、「炭素繊維という新素材の開発プロセスでは、これまでにない原材料の開発(原料革新)と製法の開発(製法革新)、そして多様な製品用途の開発(製品革新)という3つの革新が同時並行的に進行する」ということである。この特徴は、いわゆる自動車などのような組立型産業における技術革新プロセスのモデルであるラグビ-型モデルのそれとは異なる点である。 我々は、以上のような研究成果の一部を『商大論集』(神戸商科大学紀要)に掲載し、平成9年度科学研究費奨励研究(A)研究計画調書において申請した「日本企業の新素材の開発過程における理論的、実証的研究」において、引き続き研究・調査を続ける予定である。
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