メディア・リッチネス理論はメディア選択を、コミュニケーション・タスクの多義性とメディア・リッチネスとの適合という合理的なプロセスとして説明するものである。しかし、対象メディアの拡張によって、リッチネス理論では説明できない現象も現れてきた。電子メールは、理論では、リッチネス・レベルの低いメディアであることが予測されてきたが、組織階層の上位レベルで下位レベルよりも選好されているという、理論の予測に反した実態も報告されている。 このような実態を説明するものとして、伝統的メディアに関して概念化されたリッチネスの構成次元を、電子メディア特有の属性も含めて問い直すべきだとする指摘や、コミュニケーション・タスクとして職務レベルではなくメッセージ・レベルをより強調すべきだとする指摘もある。これらの指摘は、リッチネス理論の全体的なフレームワークを維持しながら測定次元の修正を試みるものであるが、フレームワークそのものに対する批判も登場している。特に、管理者のメディア選択を決定するものを、客観的なメディア属性よりも、メディア選択を取り巻く社会的要因に求める研究が台頭してきている。 リッチネス研究は、メディア・リッチネス理論の功績を踏まえたうえで、選択行動への社会的影響を考慮することによって、これまでとは異なった展開の可能性を示している。そこではリッチネスそのものを、メディア属性に加えて社会的プロセス、社会的コンテクスト、関係性などによって創発的に形成されるものとして捉えることが試みられている。すなわち、リッチネスはメディア選択の原因というよりは、社会的行動の結果として、コミュニケーションそのものに関するものとして取り上げられることになる。
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