それぞれ異なる目的をもつ商法会計と課税所得計算との間にみられる制度上及び実務上の相互作用に関して次の2つの分析を通じて研究した。 (1) 商法合計と課税所得計算との間の制度的関係の形成要因を、契約理論に基づく取引コスト概念を導入した分析視角から検討した。 (2) 法人税率の変更が商法会計と課税所得計算の間に実務上どのような相互作用を引き起こしているかを検証した。 まず、(1)に関しては、会計主体である企業を「契約の集合体」と理解する企業観に基づく分析枠組みを導入し、この枠組みのなかで、商法会計と課税所得計算を制度的に結び付けている確定決算主義の有効性を、公平な課税所得計算への役立ちと、政治コストの削減という点から評価した。さらに、この分析枠組みでは効率的税務計画の検討が重要であることも示した。この結果を比較制度分析の観点から諸外国の研究者にレビューしてもらうために、現在英文に翻訳中である。本年9月までに公表予定。 次に、(2)に関しては、平成元年度及び2年度の法人税率引き下げに対する会計上の利益操作の有無を発生主義会計利益とキャッシュ・フローの差異分析を通じて検証することを試みたが、仮説を支持する結果は得られなかった。現在、(1)の成果の1つである効率的税務計画における租税裁定の可能性をコントロールできるようにサンプルを修正して再度検証を行っている途中である。
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