本研究では、近年、我が国で脚光を浴びている企業年金について、会計学的に見た場合の年金負債の特徴・年金数理仮定の選択が年金負債に与える影響・年金負債の評価基準による年金基金の積立率のボラティリティなどを分析対象とした。そして、どのような評価基準を採用するのがいいのか、またいかなる「デイスクロージャー政策」が望まれるのかについて理論的・実証的に検討することを目的としていた。結果的には、まず「企業年金先進国」と呼ばれている米国の企業年金会計基準の歴史的・理論的変遷ならびに発展をたどることを通じて、母体企業にとっての企業年金の影響度の大きさを発見することができた。そして、年金資産・年金負債ともに、母体企業の資産・負債として捉えていく方向性が見いだされた。企業財務論の分析手法を用いた、年金会計情報に対する資本市場の反応に関する実証リサーチなどのサーベイを通じても、同様の結果を得た。 我が国でもアメリカ基準で財務報告を実施している企業が30社弱あり、そのデータを集計した結果、以下の知見を得ることができた。第1にVBOベースでは積立率は100%を多少切る程度である。平成6年度を例に取ると、23社中8社が積立率100%を越えている。第2にABOベースでは積立率は約90%程度に低下する。第3にPBOベースでは、約70%にまで低下し、十分な積立状況にある企業はわずか1社となってしまう。すなわち日本企業のケースを見ても、年金負債の評価基準に何をとるかによって、積立率は約30%程度の幅を持って変動する。そしてそれに応じて、積立状況が十分な企業も増減するのである。日本の資本市場が年金関連情報をどのように評価しているのかに関する資本市場ベースの多変量解析的な分析は、今後の課題として残された。
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