分岐現象は、非線形系保存力学系においてカオスと並んで重要なキーワードである.古典系の示す分岐現象にいかなる量子論的現象が対応するかは、様々な視点から研究されている.筆者は、以上の背景の下、保存力学系の周期軌道分岐の量子古典対応を幾何学的な視点から研究した。特に、モデル力学系として、3パラメータ自由度を許す、1:1共鳴バ-コフ・グスタフソン標準形の4次打ち切り系を選び以下の成果をあげた. まず、このモデル系は古典論の枠内では、サドル・ノード型と呼ばれる分岐をその周期軌道に生じることを示し、同時に分岐を生じるパラメータ値の集合(分岐集合)を明らかにした.次に、この系にトーラス量子化法を適用し、量子論的分岐としてのエネルギー準位の偶然縮退を見出した。この研究で特徴的なのは、準位縮退や状態数等の精密な解析には不向きと思われてきたトーラス量子化法を、微分幾何的枠組みの中で用いることで、一切の近似を用いずに縮退の議論に成功したことである. 上で述べた結果は、1996年ロシア共和国サラトフで開かれた、カオスと分岐理論に関する国際会議で発表された他、'the International Journal of Bifurcations and Chaos'に掲載される予定である.また、上記の結果についてロシア共和国原子核共同研究所主席研究員、セルゲイ・ヴィニッキー博士を招聘しレビューを受けた.その際、モデル系に帰着可能な物理系を見出す、いわゆる逆問題の考察が、応用面で今後重要となるであろうことも確認された.
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