研究概要 |
四元数ケーラー多様体上のYang-Mills方程式に対する新たな解空間、もしくはモジュライ空間を求めることに成功した。主な成果は次の通りである。 1.正のスカラー曲率をもつcompactな四元数ケーラー多様体上の複素直線束にたいして、その反自己双対接続をすべて決定することができた。すなわち、Chern類を固定して考えると、そのモジュライ空間は一点になるということができる。このうち、自明でない接続をもつものは、複素グラスマン多様体だけである。 2.1のようにそのモジュライ空間が一点となるようなベクトル束は、rankの高い場合にも起こり得ることを示した。ここは、4次元多様体の場合と著しく異なる。このような例を複素グラスマン多様体上で構成した。 3.1,2のベクトル束の直和を考えることにすると、反自己双対接続の変形が可能となることを示すことができた。さらにこの場合は、その変形をすべて記述することが可能である。その結果、モジュライ空間はある複素射影空間上のopen coneと見なせることが明らかとなった。この例も今までのものと比較すると、いくつかの相違点をもつ。第一には、このベクトル束は奇数次の0ではないChern類をもつ。第二に、このモジュライ空間の境界を調べると、その点は特異集合をもつベクトル束と理解できるが、その特異集合が四元数の意味で余次元が1となる複素グラスマン多様体のみであるという点である。 これらの新たに発見された例、とくに3の場合のモジュライ空間も実は、底空間の等長変換群の表現空間と密接な関係をもっており、この点では今まで発見してきた解空間との統一性が見られる。このようにモジュライ空間は底空間の幾何学を理解するうえで、ますますその重要性を増してきていると思われる。この点が今後の課題である。
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