Hormanderによる線型偏微分方程式論の肝要な点は、超函数の特異性を底空間上のみならず、その余接ハンドル上で捉えることにある。これが波面集合の概念であるが=これは、解析性に着目された佐藤幹夫先生による特異性スペクトルのC^∞-versionである=一方、工学で盛んに使われ出したウェーブレット変換も、ユークリッド空間R上であるとはいえ、その余接ハンドル=相空間=上への変換に他ならない事に気付いた私は、Hormander流の超局所解析を展開する第一歩として、多変数のウェーブレット変換=これはユークリッド空間R^n(n≧2)の余接バンドル上への変換となるべく、ウェーブレットにある種の条件が課された変換である=を定義した。この新たなウェーブレット変換によって定義される波面集合とHormander流の波面集合との比較を様々の滑らかさのレベルで=最も広い枠組の一つである所のBesov-Triebel-Lizorkinの意味での滑らかさで=行い、あるクラスの擬微分作用素の擬微局所性の簡明な証明を与える事に成功した。私の次なる研究の準備状況としては、第一に、球面S^n上のウェーブレット変換を定義し、これを用いて球面S^n上の函数空間=Besov-Triebel-Lizorkin空間=の特徴付けを行った。そして、このウェーブレット変換が「表現論」と密接な関係を持っている事も分かって来た。第二に、偏微分方程式の解の特異性の伝播に関する研究は、以下の段階まで進んだ。即ち、Hormanderが当初扱った作用素に対してはCordobaとFeffermanによるウェーブパケット変換を用いた結果が既にあるが、私のウェーブレット変換を用いた準備的研究は、彼らの結果を含んだ形で、ごく最近仕上がった。ユークリッド空間R^n上のみならず、「一般の」多様体上で(何らかの群の作用を持つ多様体上で)上記の議論を展開することに関しては、私のウェーブレット変換も出来上がってみればLittlewood-Paley理論の連続的かつ超局所版になっているので、いわば多様体上のLittlewood-Paley理論を展開することが重要であり、表現論の立場からのアプローチが極めて有効に働くことが分かって来た。
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