今年度の成果は主に2つある。一つは、ループ空間上のDirichlet形式の既約性に関するもので前年度にひきつづいて得られた結果である。もう一つは、一様なエルゴード性とソボレフ不等式からスペクトルギャップの存在が証明できるということとその応用である。まず、既約性について述べる。ループ空間上の微分はtorsion tensorがskew symmetricになるようなリーマン接続で定まる確率平行移動を用いて定義される。前年度は特にLevi-Civita接続について定まる微分について、各ホモトピー類ではDirichlet形式が既約であることを示したが、今年度は一般な接続のとき、ループ空間の連続関数の位相について連結な開集合上で微分が消える関数は定数のみであることを示した。一般な接続を扱うためにはuniversal connectionを用い、Levi-Civita接続のときのgradient Brownian systemに相当するSDEを構成するという最近のElworthy-LeJan-Liの結果を用いる。第2の結果について述べる。マルコフチェーンについては、遷移確率が一様に下から押さえられていればスペクトルギャップが存在するという結果があるが一般のケースではそのようなことは期待できない。我々は、これを一様なエルゴード性とソボレフ不等式を用いて回復したといえる。2、3の応用を述べる。まずウィーナー空間上で測度を絶対連続な測度に変更したとき対数ソボレフ不等式がやはり成立するかという問題がぎりぎりの範囲で解けるのが一つである。また、リーマン多様体のとき、あるケースではdefectiveな対数ソボレフ不等式がまず証明できる場合がある。その時、スペクトルギャップの存在を仮定して対数ソボレフ不等式が示されるが、実はこの仮定は不要であることが我々の結果でわかる。そのスペクトルギャップの大きさも評価されるが、これはソボレフの不等式に現れる定数で評価できるという新しい結果である。
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