ユークリッド空間への埋め込みによって入れた座標、球面への巻き付けによって入れた座標、角度による座標がそれぞれどういう場合に有利でありまた利用可能であるかを調べ、これらの長所や短所を明らかにしました。そして、球面上の既存の分布のモデルについてその形状などの特徴を調べ、通常のユークリッド空間での分布に用いられている統計的手法をいくつか適用し、得られた結果と、今までに得られている結果と比較してみました。また、円周上でのいわゆる平均と分散に相当する特性量が何であるかを考え、完全に対応するものは(当然のことながら)ないのですが、それらの性質のいくつかを、幾何学的な構造を考慮した上で明らかにしました。さらに、円周上での中心極限定理とその中心に相当する特性量の候補を与えその性質を調べています。一般次元の球面上では、特にランジュバン分布について、この分布を仮定した母数の推定や検定の問題のいくつかを漸近的に解決しています。具体的には、一標本問題での平均方向や集中化母数の推定、平均方向についての検定、多標本問題での検定などを、標本数が多いときまたは集中度が高いときそれぞれの場合について統計量の漸近的な挙動を導出しました。そして、多くの場合に、最尤推定量そのものよりもこれを少し修正した統計量のほうが偏りの面で良いという結果を得ました。これは通常のユークリッド空間における結果とは異なっており、球面上の特殊性の一つといえるでしょう。
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