われわれは、京都大学化学研究所において、電子蓄積リングの建設を進めている。現時点では電磁石等の各コンポーネントの設置、配線等の作業は終了し、真空作業の準備をおこなっている。このリングの主なパラメータは、最大エネルギー300MeV、周長25.689m、偏向部の曲率半径0.835mである。このリングはレーストラック型をしており、5.6mという小型リングとしては比較的長い直線部を2本もっている。この特長を生かして、直線部を利用した自由電子レーザーの検討を、平成8年度におこなってきた。 こうした小型リングでFELを考える場合に問題となるのは、エネルギーが300MeVでは、放射減衰の時間が横方向で0.13秒と長くがかり、FEL発振の結果、ビームエミッタンスが悪化しても、それを十分に早く減衰させることができず、発振が安定して持続しない可能性がある点である。本研究では当初、放射減衰用ウィグラーの挿入も検討していたが、これでは減衰時間が数分の1になるだけで、ウィグラーによるビーム軌道の乱れも考えると最善の方法とはいえなかった。その後、オプティカル確率冷却の検討を始めている。これはイオン蓄積リングでの確率冷却の応用で、ピックアップ、キッカーの代わりにアンジュレータを用いるものである。もし、この手法が利用できるなら、小型、低エネルギーリングでのFEL発振にとって重要な前進になる可能性があり、現在、どの程度のエミッタンス減衰が可能なのか検討しているところである。
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