核子間の力で荷電対称性を破るものとして、クーロン力を始めとする電磁相互作用の存在は明らかであるが、電磁相互作用を除いても核力(強い相互作用)にも荷電対称性を破る成分があることが、近年の実験から分かってきている。核力の荷電非対称成分がどの様な原因から生じているのか、現在明確な結論が得られていないが、その候補と見なされている中間子混合ポテンシャルなどは、かなり短距離的な性質のものである。これまで私が中心になって進めた研究では、更に積極的に「短距離的な荷電非対称力であることが、原子核のデータを再現する上で必要である」ことを示した。 しかしながら、短距離的な力であることは理解計算の誤差を大きくする。本研究での主要な目的はそのような誤差を見積もり、更にこれを小さくすることで最終的に「実際に働いている荷電非対称力」の原因を探ることである。これまでに計算したところでは、短距離力であることからくる誤差はおおよそ中心値の1倍の大きさである。この数値は中間子混合力を仮定し、更に“現実的な核力"(中間子交換による湯川ポテンシャルの積み重ねで核力を表現し、その中のパラメータを実験に合うように決めたもの)の範囲で散乱長の荷電非対称項を計算したものである。種々の“現実的な核力"があるが、それは現在分かっている知識の限界を表すものを考えてよいだろう。その範囲で計算しても小さい予言値は大きな予言値の半分でしかない、というのが結果である。このような誤差を小さくするために、短距離に注目した核力の研究が今後必要である。
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