半導体微結晶における励起子の発光寿命は、その微粒子サイズの依存性(量子サイズ効果)に興味をもたれて研究がおこなわれている。しかしながら、励起子の緩和に表面や欠陥などの準位がどのような影響を及ぼしているかなど、解明されていない点は多い。そこで、NaCl結晶中のCuCl微結晶、ガラス中のCuClおよびCuBr微結晶において、発光の時間分解および過渡吸収の時間変化を測定した。 NaCl中のCuCl微結晶においては、発光スペクトルには吸収スペクトルと比較してストークスシフトがみられ、発光が「局在状態」からのものであることを示す。発光の時間変化には、4nsの長い緩和成分に加えて、自由励起子状態では40psの速い減衰が、「局在状態」では40psの立ち上がりがみられる。これら各エネルギー位置における発光の時間変化は、自由励起子状態から局在状態へ40psで緩和していると考えることによってうまく説明することができた。すなわち、局在状態に緩和する自由励起子は40psで無輻射に緩和し、それ以外のものは4nsで再結合発光することが明らかになった。 NaCl中CuCl微結晶で過渡吸収の時間変化を測定すると、発光の時間変化と一致し、上述の緩和メカニズムを支持している。一方、ガラス中のCuClおよびCuBr微結晶では両者は一致しない。100psまでは両者の減衰(時定数100ps)はよく一致し、発光はそのまま単一指数関数で変化する。しかし、過渡吸収のほうには、1nsの長寿命の減衰成分が残る。この特異な振る舞いは、励起子が無輻射に電子と正孔に分離して表面や欠陥準位にトラップされ、それらが1nsの時定数で無輻射に再結合しているとすれば理解できる。ガラス中のCuBr微結晶でも同様の結果がえられ、ガラス中の微結晶では、無輻射に解離する励起子がその寿命に大きく寄与していることが明らかになった。
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