弾道電子放射顕微鏡(BEEM)は走査トンネル顕微鏡(STM)を用いて3端子測定をすることにより、表面内部の界面の様子をナノ・スケールで調べることのできる有力な測定手段である。最近、原子スケールのBEEM像が実験で得られているが、なぜ原子スケールでの像が得られるのかそのメカニズムは明かではない。本研究においてそのメカニズムを理論的に調べた。 まず、STMの理論で良く用いられているTersoffとHamannの理論をBEEMに適用した。しかし、この理論は原子スケールでのBEEM像を説明するには不十分であることがわかった。この理由は、Tersoff-Hamannの理論ではSTMのトンネル電流が表面の局所状態密度に比例するとしているため、トンネル電流が一定になるように探針を表面上に走査しても表面の内部の状態は変わらず、BEEM電流は変化しないからである。したがって、3端子系の電子の透過確率を散乱理論を用いて正しく計算しなければならない。ただし、実験のBEEM電流はトンネル電流に比べて非常に小さいため、表面内部の金属-半導体界面を通り抜ける電子は摂動として扱える。そこで、まずは、トンネル・ギャップの後ろに無限大の高さを持つ壁を持つ系を考えれば良い。この場合、トンネルした電子は表面に平行に流れなければならないが、このような系の電子の透過確率を計算する方法は従来なく、新たに開発しなければならないことがわかった。
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