GaAs/AlGaAs半導体ヘテロ界面の高易動度2次元電子系をメゾスコピックなサイズに微細加工した系で見られるバリスティック伝導とその散乱長を決める様々な散乱の詳細ついて研究した。2次元電子系に平行な向きの強磁場(10T程度)の下での磁気電子フォーカス効果を測定し、フォーカス効果のピーク値の端子距離依存性からバリスティック散乱長を調べた。平行磁場により2次元電子系の厚み方向のローレンツ力が加わるため、ヘテロ界面に閉じ込められた電子の厚み方向の分布が変調される。通常、ヘテロ界面から10nm程度に分布している電子分布を、平行磁場により界面に「押しつける」とき、バリステッィク散乱長は平行磁場の無いときより小さくなり、平行磁場10Tで約15%減少した。また、逆向きの平行磁場下では電子が界面から遠ざかる向きの力を受け、バリスティック散乱長は増大した。大まかに見積もった電子の波動関数の重心位置の変化は非常にわずかであるため、この平行磁場による散乱長の変化は、界面付近の散乱原因であるラフネス散乱や合金散乱の寄与が変化したためと考えられる。さらに、様々な易動度のウエハを使って試料を作製し、バリスティック散乱長に与える平行磁場の影響を調べたところ、元の易動度の高い試料ほど平行磁場の影響が顕著であった。極低温でのHEMT構造の2次元電子系の易動度を決めているのは、もっぱらイオン化ドナーによる不純物散乱であるが、平行磁場により通常表に出にくい界面付近の散乱が増減しているものと考えられる。 このほか、平行磁場によるフェルミ面の異方性の研究や、正の磁気抵抗の起源について現在詳しく調べている。
|