科学衛星『あすか』のデータを用い、宇宙環境での電荷結合素子(CCD)の放射線損傷について調べた。『あすか』衛生には、X線天体を観測する目的で、X線反射鏡とその焦点面にX線検出用CCDが搭載されている。このX線CCDは、空乏層厚が約30ミクロンの3相フルフレームトランスファ型CCDで、動作温度は-60℃である。『あすか』衛星は、高度500kmの円軌道を飛行しており、主に放射線帯の高エネルギー陽子により放射線損傷を受けるものと考えられる。解析の結果、放射線損傷の影響は、電荷転送効率の低下と暗電流の増加をもたらしていることがわかった。電荷転送効率は、ほぼ打ち上げ後の経過時間に比例して、約10E-5/transfer/yearの割合で低下している。『あすか』搭載CCDの場合、18.5、37、8700μ秒の3種類の異なる周期のクロックを用いているが、クロック周期が゙2桁違っても転送効率の低下量は数倍しか異ならなかった。これから、転送効率低下の原因となっている電荷トラップは、特定のエネルギーレベルにできるのではなく、かなり広いエネルギーレベルに渡って形成されることが明らかになった。また、電荷転送効率は、転送列ごとに2倍以上変化しており、電荷トラップは著しく不均一に形成されることが明らかになった。一方、暗電流はチップ全体で平均するとやはり打ち上げ後の経過時間に比例して増加しているものの、ピクセル毎のバラツキが大きく、ピクセル単位で調べると、暗電流は数ヶ月に1回、放射線帯通過時に不連続に増加していることが明らかになった。結果として、ピクセル毎の暗電流のばらつきが徐々に増加している。放射線損傷のこのように著しい不均一性は、今回の解析で初めて明らかになった結果であり、宇宙環境でのCCDの応用に役立つものと期待される。
|