これまで詳細な熱電能の測定が行われていなかった、擬一次元有機導体において熱電能の温度依存性を調べることを目的とした。そして、熱電能という物理量がスピン密度波(SDW)の多相構造を明らかにする新たなプローブとなることを期待した。そこで、低温領域まで測定可能な熱電能測定クライオスタットを製作し、擬一次元有機導体TMTSF塩の熱電能の温度依存性の測定を試みた。 1.熱電能測定システムの整備 既に熱電能の温度依存性が知られている参照資料と、未知試料とで熱電対を形成し、その両端に適当な温度勾配を与えた際の起電力を計測し未知試料の熱電能を求めた。参照試料として鉛を用いた。クライオスタットは自作した。ガラス製ヘリウムデュワ-内に納められ、室温から4.2K、更に減圧により1.4Kまで連続的に降温可能である。未知試料として銅を用いて動作試験を行ったが、その熱電能の絶対値及び温度依存性は文献値とよい一致を示した。 2.TMTSF塩の熱電能測定 室温から1.4Kまでの温度領域で(TMTSF)_2ClO_4の熱電能を測定した。しかしながら、ノイズが大きく、再現性のあるデータは現在のところ得られていない。この原因は、参照試料の鉛と試料との接合部(熱電対の片端)にあると思われる。機械的接触により接合させているが、温度を変化させた際試料の熱収縮(膨張)等により接合が不安定になることが分かった。このため、圧電素子を用いて適当な応力を加えられるように現在改良を行っているところである。
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