広領域走査型の走査トンネル顕微鏡(STM)を用いることによって、一次元物質カーボンナノチューブのSTM像を観察した。カーボンナノチューブはその大きさがメゾスコピックサイズであるため、位置制御ができず、通常のSTMでは、カーボンナノチューブ像の観測だけでも大きな困難がある。本研究では、広領域走査型STMを用いた広い領域の探索ができたため、カーボンナノチューブを単に基板上に分散させただけで、基板上でカーボンナノチューブが確率的に存在するような試料を用いても、比較的容易に像の観測ができるようになった。基板としてグラファイトを用いることにより、基板に固定するためのバインダーを用いなくても再現性の良いSTM像が得られた。直径約300Å-500Å、長さ約1μmの範囲の大きさのカーボンナノチューブの像が得られた。この大きさが走査型電子顕微鏡(SEM)観察によって得られたものとほぼ等しいことから、STM探針の走査時の反応のタイムラグによる境界のなまりの影響は少なく、カーボンナノチューブの形状を忠実に観測していると推測される。 トンネル分光(STS)実験では、現在のところ、状態密度がフェルミ準位でギャップのあるスペクトルのみが得られており、測定したカーボンナノチューブが半導体的な電子構造を有していることを示唆している。スペクトルの再現性にやや欠けるため、測定条件の最適化や様々な直径のチューブに対して実験を遂行していく必要があるが、カーボンナノチューブの結晶構造、特に、構造の特徴的なパラメーターである直径と電子構造の相関を明らかにするための基本技術が確立した。
|