磁性半導体EuTeとNiの複合薄膜作製にあたって、当初はGaAs基板上に成長させて微細加工を施す予定であったが、実際には実験条件上の種々の制約から、将来において微細加工を行なう基礎となる、高度に制御されたEuTeのエピタキシャル膜の作成に重点をおいた研究を行なった。高真空電子ビーム蒸着装置を用いてBaF_2(111)壁開面を基板として、EuTeを1000Å程度エピタキシャル成長させ、その上にNiを50Å-100Å程度成長させた試料を基板温度などの条件を変化させて多数作成した。X線回折によりEuTeの配向性を調べた結果これらの試料がエピタキシャル成長していることが確認できた。また、EPMAによりEuTeのストイキオメトリーを調べた結果、作成条件により、最大数%程度Euが過剰になっているが、その結果はEuTeのネ-ル温度にはそれほど影響を与えてはいないこともわかった。 このような試料について、SQUID磁束計により磁気特性を測定した結果、Niの膜厚が100Å程度の厚い膜ではEuTe層との相互作用はほとんど見られないが、50Å程度まで薄くする事によって島状の構造となり、面内の異方性が弱くなってくることが観測された。また、本補助金で購入した高精度のナノボルトメーターを用いで、極低温下の強磁場中で電気抵抗の測定を行なった。その結果、Ni(100Å)の厚い試料では、Niの磁区がそろってくる過程に対応した非常に小さい(0.2%程度)の磁気抵抗が見られただけであったが、Ni(50Å)の薄い試料では、5Kにおいて10Tで約3%と大きな磁気抵抗が観測された。30Kにおいてはほとんど磁気抵抗が見られないことから、EuTeの磁気オーダーがNiの電気抵抗に大きな影響を及ぼしていることが示唆される。
|