SrCu_2O_3、Sr_2Cu_3O_5はそれぞれ2本足、3本足のスピン1/2ハイゼンベルグ反強磁性梯子格子を持つ化合物で、これまでに帯磁率、NMR、μSRの実験を通して前者が理論度通り約400Kのスピンギャップを持つこと、それに対し後者はギャップレスで、52K以下で何らかの磁気秩序を持つことを明らかにしてきた。CuGeO_3の例に見られるようにこうしたスピンギャップを持つ系への不純物置換実験は大変興味深い。 梯子系の基底状態においてはスピンはシングレットペア-を形成しており、Cu^<2+>(スピン1/2)を非磁性の元素で置換することでこのシングレットペア-がこわされ、不純物一つあたり1μ_Bの局在モーメントの発生が予想される。Sr(Cu_<1-x>Zn_x)_2O_3の直流帯磁率の温度変化からは、予想される通り低温でキュリー的な帯磁率の増大が見られる。キュリー定数を見積もったところ、Zn一つあたりスピン1/2が出現するとした場合の0.7倍程度であった。 さらに低温に目を向けると、反強磁性転移を示唆するカスプが見られた。これが反強磁性転移であることは比熱、阪大基礎工朝山研の大杉によるNQRの測定で確認された。比熱の温度変化を測定したところ、ノンドープの試料ではほぼT^3に比例する振る舞いがみられた。これは大きなスピンギャップの存在を反映して磁気励起がゼロに近くなっており、格子比熱のみが観測されたとして理解できる。これに対し、Zn置換した試料では転移点以上で温度に比例する磁気比熱が観測された。これはギャップレスの一次元反強磁性体の特徴で、系がギャップレスになっていることを示唆している。これを確認するために行った中性子非弾性散乱実験では、ギャップの大ささはZn濃度によらず、そのかわりギャップを超えての励起に対応する磁気散乱の積分強度が減少し、4%置換したところでギャップはほぼ見えなくなっていた。こうした結果をまとめると、わずか1%程度の不純物置換によってギャップ内に状態密度が生じて全てのCuイオンが小さなモーメントを持つ様になり、それらが一次元性を保ったまま相互作用して、5K程度の低温でわずかな3次元性のために反強磁性的にオーダーしている様である。
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