近年、A15化合物等の強結合超伝導体において重い電子系物質との関連性が指摘され、重い電子系物質同様超伝導エネルギーギャップの異方性が議論されている。私達はA15化合物等の超伝導の起源を探る為NMR法を用いて、エネルギーギャップ異方性を反映する物理量であるスピン-格子緩和時間T_1およびナイトシフトの測定を^<51>V核に対して行ない、C15ラーベス相化合物HfV_2やA15化合物V^3Siにおいて超伝導状態でのT_1の温度依存性に、重い電子系超伝導体物質や銅酸化物高温超伝導体でも見られる温度のべき乗則が現われる事を見出している。今年度は新たに以下の成果が得られた。 (1)HfV_2の常伝導状態でのナイトシフトを測定した。ナイトシフトには3dスピンの内殻コア分極項による温度依存性が見られるがK-χプロットの傾きが120K付近を境に変化し超微細結合定数は10K〜50Kで-56.5kOe/μ_R、150K〜280Kで-1580kOe/μ_Bと求まる。120Kで報告されている結晶変態とこのナトフシフトの振る舞いについて現在考察中である。また結果をICPM-96(遷移金属物理学国際会議・大阪千里)や日本物理学会1996年秋の分科会で講演発表し、Physica Bに掲載の論文は現在印刷中である。 (2)HfV_2、V^3Siの超伝導状態でのナイトシフト測定を行なった。超伝導状態での反磁性シフトや常磁性limiting effectの影響を評価に検討の余地があるものの、いずれの物質でも超伝導転移温度T_C以下低温でナイトシフトへの内殻コア分極項の寄与が急激に減少し、充分低温では完全に消失しているという結果を得た。これはク-パ対がスピン一重項の電子対からなっている事を意味していると考えられる。V^3Siで見出されたT_C〜T_C/3のの温度範囲での1/T_1のT^3温度依存性やHfV_2における低温での1/T_1のT^5温度依存性を考え併せると、V^3Siではスピン一重項polar型のHfV_2ではスピン一重項ABM型のク-パ-対が形成されているものと考えられる。現在これらの結果をまとめた論文を投稿準備中で物理学会でも講演予定である。今後の課題として、T_1評価のより安易な^<29>Si核の信号の測定や超伝導状態でのナイトシフトの温度依存性の精確な評価などを通してこの物質のエネルギーギャップ異方性についてさらに議論したいと考えている。
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