散逸粒子系である粉体の統計的定常状態をどの様に特徴づけるかは従来大きな問題とされていた。本研究ではその特徴づけの為に平衡系での統計・熱力学的概念を積極的に利用して実験に即したレベルでの粉体系の記述を試みた。その結果、以下の様な一定の成果を挙げることができた。 (1)粉体振動層におけるフェルミ統計の有効性:振動層と呼ばれる粉体を外部振動によって励起する系に於いて最も重要な効果は粒子の排除体積効果であることを看過した。特に2次元系で側壁などの効果が現われにくいときには粒子の密度分布は理想フェルミ分布で近似的にしかも定量的に記述できることを示した。この場合、粒子の励起を特徴づける「温度」は従来の粒子の運動エネルギーから推定するものと比して系に一様な値を与える外部パラメータによる示強変数として定義されているために系の特徴づけに有効な量となっている。この研究の主要部分はPhysical Review Lettersに印刷中であり、粉体の研究者のみならず非平衡系全般の研究に一定のインパクトを与えた。3次元系でも液体論におけるホール理論的描像の有効性を示唆している。 (2)粉体流動層におけるホール理論の有効性:ガス流との混相系である流動層の問題に於いてもガス流速が「温度」と見做せることをシミュレーションによって確立し、同時に平衡に近い液体論で用いられるホール理論(自由体積理論)が有効であること更に揺動散逸理論が適用できるようなことが明らかになってきた。このことは強非平衡系でも平衡系の概念の有効性を示唆する。
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