一般に、液晶の電場に対する挙動を観察するときは、配向剤と透明電極が塗布された2枚のガラスの間に液晶を封入して行う。通常全面に透明電極の塗布されたガラスを用いるが、本研究では、一方のガラスの電極を細い帯状のものにすることによって、封入された液晶の一部にのみ電場が印加されるような容器を作成した。その容器を用いてネマチック液晶の電気流体力学的対流を引き起こし、理想的な1次元対流系を作ることに成功した。 現在、対流発生(分岐)点近傍の対流系のふるまいは、「振幅方程式」と呼ばれる非線形偏微分方程式で記述されると考えられている。特に1次元系の場合の振幅方程式は、よく知られた「ギンツブルグ-ランダウ方程式」になる。本研究では、1次元対流系における周期的対流構造(パターン)の安定性を実験的に調べ、さらにある特定の空間モードで現れる「エクハス不安定性」のダイナミクスを詳細に観測した。また、実験結果をギンツブルグ-ランダウ方程式から得られる理論的結果を比較した。 まず、分岐点近傍の対流パターンの安定性ダイヤグラムすなわち「ブッセ・ダイヤグラム」をつくり、それがギンツブルグ-ランダウ方程式から得られる理論的結果とよく一致することがわかった。また、エクハス・モードの波数と成長時間の攪乱波数に対する依存性を測定した。しかしこの結果は、エクハス不安定性によって不安定化する全てのモードの中で、成長率が最大であるモードがエクハス・モードとして観測されると考えてギンツブルグ-ランダウ方程式から導き出した理論的結果と一致せず、さらに高次の非線形性を考慮しなければならないことがわかった。
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