メソスコピック系の物質は、従来の物質では見られない物性をしめす物質として興味を持たれている。理論的には、原子と固体の中間のサイズのため、原子分子の理論や固体のバンド計算のような既成の理論をそのまま適用するわけにはゆかず、新しい描像や新しい研究方法の確立が必要とされている。また、量子カオスを実際の物理系で研究する手段としても注目される。 このようなメソスコピック系の物理を探求するために、私は実時間実空間差分法(「量子ダイナミクス入門」飯高、丸善、1994、参照)を用いたシュレ-ディンガー方程式の数値計算によるメソスコピック系の研究方法を確立した。以下、その概要を述べる。詳しくは http : //espero.riken.go.jp/ を御覧いただきたい。 【1】この実時間実空間差分法を応用して、任意の局所ポテンシャルV(r)中の相互作用しない多電子系の線形応答関数を、O(N)の計算量で計算する方法を確立した。応用範囲は広く、既にシリコン微結晶の光学吸収や、フォトニックバンドなどのメソスコピック系デバイス研究への応用があり、今後さらに広く応用されると考えられる。 【2】Symmetric Multistep法によりシュレ-ディンガー方程式を数値的に解くとき、ハミルトニアンの固有値が一定の値を越えると解が発散する。この発散は、シュレ-ディンガー方程式を解く際には邪魔になるものであるが、本研究ではこの発散を利用して大規模エルミート行列の固有値固有ベクトル問題を効率的に解く方法を研究する。現在のところ、基本的なアルゴリズムを確立した。今後、具体的な問題を適用して、この方法の有用性を明らかにしたい。
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