既存の加圧装置の圧力限界が40MPaであったものを200MPaまで拡張し、血漿およびポリエチレングリコール水溶液中における赤血球凝集への圧力効果を沈降速度より調べた。 その結果、血漿中での赤血球凝集は最初、加圧により増大するが、80MPa付近で極大をとりその後、減少するという新しい事実を見出した。一方、実験で用いた分子量7500のポリエチレングリコールは常圧下において約3%以上の濃度で赤血球凝集を引き起こすことが知られているが、100MPaの加圧により濃度2%でも凝集することが分かった。また、ポリエチレングリコールによる赤血球凝集は200MPsまで圧力の増加とともに著しく増大し、血漿中で見られた80MPa付近での極大は観測されなかった。 血漿中での凝集の主要因子はフィブリノゲンで、この分子が赤血球間を架橋することで凝集が形成されるのに対し、ポリエチレングリコールは赤血球表面への直接作用はなく、赤血球間より高分子が排除されることによって生じる浸透圧差、いわゆる枯渇効果により凝集を引き起こすとされている。従って、両者の圧力依存性の違いは、異なる凝集メカニズムに由来するものと推測できる。以上、赤血球で観測されたこれらの現象は、他の懸濁液においても見出される可能性があり、物理的立場からも非常に興味深い。 今後は、担体粒子や溶存高分子の種類を変え同様の実験を行う予定である。さらに、速度論的な解析を可能にするため、加圧中での顕微鏡観測が可能な圧力装置を製作し、凝集速度を測定することも考えている。
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