高分子物質を非晶状態から結晶化させると、結晶核形成から結晶成長・球晶成長へと様々な空間的階層で秩序化過程が観察される。特に結晶核形成には系が結晶化条件に達してから実際に結晶化が開始するまでに誘導期間と呼ばれる過渡的な時間の経過が必要であり、最近我々のグループでは、この結晶化誘導期においてメゾスコピック領域での密度および配向ゆらぎの成長過程を観測した。本研究の目的は、このようなメゾスコピックな構造揺らぎと結晶化による原子レベルでのパッキングがどのように関連しているのかを明らかにすることである。我々は高エネルギー物理学研究所所有の高分解能中性子弾性散乱装置、HITを用いて、結晶化の初期過程における構造形成を原子レベルで行った。その結果、非晶状態と結晶化誘導期間にある試料でその散乱曲線S(Q)に約1%程度の差があることを見い出した。この違いはピーク位置より、分子鎖セグメントの秩序化に起因すると考えられ、平行して測定した赤外吸収スペクトルの変化とも対応し、メゾスコピックな構造揺らぎの原子レベルでの起源を明らかにするものである。現在この散乱曲線をもとに、コンピュタ-シミュレーションによりその構造モデルの構築を行っており、それにより誘導期間における構造形成がかなり明瞭になるものと期待される。
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