強い重力場を記述する理論は一般相対論以外にもいくつか提案されており、これらの理論のうちで本研究の対象とするのは、Scalar-Tensor(ST)理論と呼ばれるものである。 Scalar-Tensor(ST)理論の基礎方程式は、スカラー場(スカラー重力波)の自由度が一つ多くなるだけで基本的に一般相対論と同じ非線形の連立偏微分方程式であり、したがって一般には数値的な手法により研究を進めることになる。具体的には次の問題を研究を行った。 1)球対称Thin Shellの運動方程式の研究. 2)球対称重力崩壊によるスカラー重力波の生成. 1)の研究では、解析的にST理論の性質を調べるためにpost-Newton近似により解を求め、球対称時空における重力崩壊の初期段階、すなわち比較的重力場が弱い段階におけるdust thin shellの力学的な進化を調べた。特に、重力崩壊によるブラックホール形成と関係の深い準局所的エネルギーを詳しく調べることにより、慣性質量と重力質量の差および、スカラー重力波の生成による物質の運動に対する反作用の機構を明らかにした。また、2)は昨年度から継続してきた研究である。1)との違いは、取り扱っている状況が非常に強い重力場を伴うという点、もう一つの違いはスカラー重力波が生成されることによる物質の運動の変化は考慮しないという近似のもとで問題を解いていると言う点であり、1)の研究と相補的な関係にある。そしてこの研究により、スカラー重力波の生成率及び観測される波形がST理論に含まれる任意パラメターに強く依存することが明らかにされた。これは重力波観測によってST理論の正当性及び理論に含まれるパラメターの高精度の決定が可能であることを示したという意味で重要であり、アメリカの物理学会誌であるPhysical Reviewに掲載されることが決定している。
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