窪谷(本人)・岡村・阪上(1995)らが示した量子カオス系による量子的な干渉性の破壊についての研究は、小数自由度系力学系においても、非線形性によるカオス性が存在することを暗示している。本研究の目的は、状況証拠によらず、それを明示的に検証することにある。 まず、発表論文、阪上・窪谷(本人)・岡村(1996)では、カオス性として系の回帰時間に注目し、2自由度キック回転子と呼ばれるモデルで長時間積分をおこなった。状態に回帰性がみられず、すくなくともエルゴード的な振舞いをしていることがわかった。 現在、2自由度キック回転子の時間発展を1次元に縮約し、1次元のダイナミックスとみなして、一次元のキック回転子と位相空間の運動としての違いを比較している。それは、縮約された1次元がどのように働くか解釈するためである。カオス性は縮約された状態に貯えられ、それが跳ねかえって来て、ランダム力(拡散項)として記述されるかどうかを検証している。さらに、その拡散性が干渉性を壊し、残りの注目している自由度にカオス的な古典運動を誘発するかどうかを明らかにすることも意図している。 上述の数値実験のモデルの他に、Arnold Catと呼ばれるカオス系を用いた計算も検討している。量子論的なグリーン関数が解析的に積分可能となるので、数値実験の結果の理解を深めるモデルとして有効と考え研究中である。
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