交通流を記述する理論としては追従モデルがよく知られている。このモデルは、運転者の反応(加減速)は外部からの刺激(前者との相対速度)から一定時間遅れる、という前提に基づいて、遅延型の方程式で表わされている。実際に人間の反応の遅れは存在するため、渋滞の発生や自動車の運動の遅れが観測されるのは、この反応の遅れが本質的と考えられてきたようである。しかし、これまで追従モデルによって渋滞の発生メカニズムを説明することには成功していない。 我々は車間距離によって決まる最適速度という概念を導入することにより、新しいモデル(最適速度追従モデル)を提案した。このモデルでは、反応の遅れを取り入れなくても、車両密度が高くなると自然に自由流から渋滞流へ遷移することがシミュレーションで確かめられている。 本研究では最適速度追従モデルにおける反応の遅れの効果について議論を行なった。理論的解析及び数値シミュレーションにより、遅れが小さい場合は交通流の不安定性、即ち渋滞形成にはあまり影響を与えないこと、大きい場合も渋滞発生より自動車の衝突の原因としての寄与の方が大きいことなどがわかった。 また、自動車の運動がどれくらい遅れて後方へ伝播するか、についても数値シミュレーションで調べた。その結果、多くの場合同程度(1秒前後)の運動の遅れがあることがわかり、これは観測される量に匹敵する。この運動の遅れには反応の遅れはほとんど影響がなく、従って、大部分は運動方程式から動的に発生する遅れによるものである。 以上のことから、反応の遅れの存在は、衝突のような自明な場合を除いてほとんど何も効果をもたらさないことが示された。
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