後期白亜紀カンパニアン期に知られる、直経40cmにもおよぶ大型の"カサガイ"、Gigantocapulus giganteus(Schmidt)は、ほとんど常に巨大なイノセラムスであるSphenoceramus schmidtiに伴なわれて、あるいはそれと同所的に産することが知られている。このため、Hayami and Kanie(1980)は、このカサガイをイノセラムスに寄生していたカツラガイ科の生物であると推定した。もしこの推定が妥当であるならば境界条件として与えたSphenoceramus schmidtiの殻の起状に沿って成長させたカサガイの理論形態の中に実際の殻形態と良く合致するものがあるはずである。本研究ではこの点に着目して、Sphenoceramus schmidtiの仮想的な殻形態のうえに“成長"したGigan tocapulus giganteusの理論形態を再現するプログラムを開発し、Hayami and Kanie(1980)の復元が妥当であるかどうかを検証した。その結果、カサガイがイノセラムスの腹側の縁に付くような彼らの復元に基づいた生息姿勢では、実際によく近似したカサガイの理論形態を再現することは困難であることが明らかになった。Gigantocapulus giganteusは、イノセラムスのうえに寄生していたにしても他の部位または方向をもって付着していたと考えられる。また、これの祖先種と考えられる“Anisomyon transformis"に関しては、仮想宿主Sphenoceramus sachalinensisを用いることで実際の標本によく類似した理論形態を得ることに成功した。
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