本年度においては、脱水・熱変成実験を進めるとともに、電子線マイクロプローブ、分析透過型電子顕微鏡を用いて暗色包有物のシステマティックな分析、観察を行なってきた。これまで研究してきたタイプの暗色包有物は、隕石母天体上で水質変成の後、熱変成を受けてできたものであると考えられ、それらの組織的、鉱物学的な違いは受けた変成の程度の違いを示す。しかし、これらとは全く異なる成因を持つ暗色包有物が存在することが新たに見い出された。これは、母天体である微惑星同士の衝突などにより粉砕された物質が再び集積してできたもので、その際に形成されたと思われる、堆積作用による構造が見られる。そのような堆積作用の痕跡が見られる隕石はこれまでに見つかっておらず、国立極地研究所での隕石シンポジウムで発表を行った。そのプロシ-ディングスに執筆した論文が現在印刷中である。 脱水・熱変成実験では、実際に水質変成を受けたとされている隕石(マ-チソン隕石)のチップをシリカガラスのチューブに入れ、真空ポンプで引きながら500℃、700℃でそれぞれ一週間加熱した。得られた生成物をスライドグラスにマウントし、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡で観察したところ、いずれにも脱水が認められたが、開放系であったため硫黄の損失が著しく、暗色包有物に一般的に含まれるような鉄、ニッケルの硫化物がなく酸化物ばかりになってしまった。今後は試料を緩衝剤とともにシリカガラスチューブに密封することで酸素分圧を制御し、異なる条件で生成物にどのような違いがあらわれるか比較していきたい。
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