研究概要 |
水クラスター負イオン(水和電子クラスター,(H_2O)_N^-)については,クラスターサイズの増大にともない余剰電子の空間分布が収縮していくことが,Landmanらにより理論的に予測されていた。しかし従来の実験ではそれを明確に証明はできなかった。電子の空間分布を検証するためには,光電子脱離断面積のクラスター依存性を調べることが最も直接的である。そこでまず,パルス光源による分光実験に適した高密度のクラスター負イオン・ビームを発生させるために,レーザー誘起低速光電子付着法を開発した。この方法では,金属ジルコニウム表面にYAGレーザーの4倍波を照射した際に放出される低速光電子を超音速ジェット中の中性クラスターに付着させる。生じたイオン種を飛行時間法で質量分析することにより,水クラスター負イオンの生成が確認された。ここで得られたクラスターサイズ分布は,従来の電子衝撃法と一致することが確認された。すなわち,小サイズではn=2, 6, 7の魔法数のみが生成し,n【greater than or equal】11では連続的な分布が観測された。次に,光パラメトリック発振器(OPO)を用いて小サイズクラスター(n=2, 6, 7, 11)の近赤外から可視領域における光電子脱離断面積を測定した。その結果,(1)脱離断面積が励起エネルギーとともに減少すること,および(2)脱離断面積がクラスターサイズにより増大することを見いだした。(1)は余剰電子が水分子の集合体がつくる弱い静電場に捕捉されていることの特徴であり,(2)はクラスターサイズによる余剰電子の局在化を示している。したがって,本研究で得られた結果は,空間的に広がった双極子束縛電子から局在化した水和電子への移行と解釈でき,はじめてLandmanらの理論的予測を実証した。
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