本研究では、これまで研究例の非常に少ない、20〜50eV付近に多数存在する分子の多電子励起状態の生成およびその崩壊過程についての知見を得ることを目的とした。直線偏光したシンクロトロン放射を利用して分子の多電子励起状態を生成し、その崩壊によって生じた一対の正・負イオンを同時計測する。そして、得られた両イオンの飛行時間差スペクトルの形状を調べることにより、イオン対状態の前駆体である多電子励起状態の電子配置および対称性を明らかにしようと試みた。 分子科学研究所の極端紫外光実験施設(UVSOR)のシンクロトロン放射を単色化した後、真空槽内で分子線と交差させ、生じた正・負イオン対を光軸および分子線軸の両者に直角に設置された2台の飛行時間測定型質量分析器を用いて同時計測した。まず初めにCO_2を試料として用いた。励起光エネルギーを26eVより大きくするとO^-とC^+と0を生じるような3体解離が観測された。このO^-とC^+の飛行時間差スペクトルは1つのピークを持つ山型の形状を示し、励起光のエネルギーが増加するにつれてその幅は広がった。 シンクロトロン放射の偏光方向を考慮し、axial recoil近似を仮定してこのスペクトルの解析を行った結果、このイオン対状態の前駆体である多電子励起状態の対称性が明らかになった。さらに、すでに報告されているイオンの電子配置についての知見を参考にすることにより、この多電子励起状態の電子配置を推定することが可能になった。この手法は他の分子についても適用可能であり、多電子励起状態の生成およびその崩壊過程の研究が今後飛躍的に発展するものと考えられる。
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