不斉自己触媒反応は、不斉触媒と光学活性な生成物の構造ならびに立体構造が同一であり、(i)生成物の他に不斉触媒を必要としない、(ii)反応後、生成物を不斉触媒から分離精製する必要がない、など従来の不斉反応にはない利点を有し、省エネルギー型の次世代の不斉反応と言えます。しかしながら不斉自己触媒反応の科学的、また合成化学的有用性は認められ、理論的にそのような反応の価値が記述されているものの、実験的報告例はありませんでした。筆者の研究室では、ピリジンカルバルデヒドの不斉アルキル化反応において、はじめての不斉自己触媒反応をみいだしましたが、不斉収率は十分に満足できる水準には達しませんでした。そして最近、ピリミジンあるいはキノリンカルバルデヒドの不斉アルキル化反応において、高選択的不斉自己触媒反応を報告しました。そこで不斉自己触媒反応の一般化および、その反応機構解明のため、また有用な合成化学反応の開発の見地から、官能基を有するアルコール類の不斉自己触媒反応の開発が望まれていました。 今回筆者は、5位にカルバモイル基を導入した3-ピリジルアルカノールを用いることにより、対応するピリジンカルバルデヒドの不斉アルキル反応において、官能基を含むアルコールとして初めて不斉自己触媒反応を見いだしました。本反応はカルバモイル基上のアルキル置換基の影響が大きく、窒素原子上の置換基により、不斉収率が変化し、特に嵩高いイソプロピル基を有するアミド基を持つピリジルアルカノールの場合、不斉収率は86%e.e.に達しました。この結果は見方を変えれば、5位へのカルバモイル基の導入により、ピリジルアルコールにおいてピリミジルアルコールに匹敵する不斉自己触媒能を実現できたことを意味し、不斉自己触媒反応の反応機構解明の点からも多くの知見を与えると考えれます。
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