研究概要 |
当年度の研究によって,2種類の非対称型の配位子を新規に合成することができた。両者とも片側には〔アルコール酸素〕-〔アミド窒素〕-〔フェノール酸素〕の配位サイトを有し,他方はそれぞれ(1)〔ホルミル酸素〕-〔フェノール酸素〕、(2)〔フェノール酸素〕〔イミン窒素〕-〔フェノール酸素〕の組み合わせを持っている。しかしながら,当初予定していた〔平面〕-〔非平面〕配位座を併せ持つ非対称型配位子の単離にはいまだいたっていない。これは,脂肪族シッフ塩基の加水分解に対する安定性に起因する問題であると推定されるため,配位子合成時に同時に金属イオンを反応させるテンプレート式合成法を応用すれば,錯体として単離できる可能性は高い。この点については今後の研究発展のためにも,引き続き試行する必要がある。一方,今回単離した配位子では初期実験としてまず2核銅(II)錯体の合成を行った。メタノール中での銅(II)イオンとの反応では,(1)は濃緑色の微結晶,(2)は淡黄緑色の粉上の微結晶が得られた。室温での磁気モーメントの値から判断して,前者は前駆体であるオキサゾリン配位子と同様の骨格の単核錯体,後者は多核錯体を形成していると思われる。EHMOに計算により両配位子の電荷密度を比較すると,配位子(1)のほうが(2)に比較して両配位サイトの配位原子上の電荷密度差が大きいことがわかった。従って現状では多核錯体の形成には至っていないものの,配位子(1)の方が両配位サイトに異なる性質の金属イオンを取り込む能力が高いと考えられるため,(1)の錯反応を今後も重点的に調べ多核錯体の合成を行う予定である。磁気的に興味深いのは配位子(2)の錯体であるが,通常の溶媒に対する溶解度が非常に低いことから,単純な2核や4核といった構造ではなく,ポリマー状の錯体を形成しているのではないかと思われる。今後これらのデータをサボ-トするためにもX線結晶構造解析により,錯体の構造を確認する必要がある。
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