1.Helicobacter pylori(H.P.菌)に対する抗菌活性とH.P.菌産ウレアーゼ阻害 (1)H.P.菌は胃粘膜に樓息する消化性潰瘍の病原菌である。数種類の水溶性ビスマス錯体(メルカプトエタノール、チオサリチル酸、メルカプトプリン、クエン酸、サリチル酸、EDTAなどのポリアミノカルボン酸、等などを配位子とする)について抗H.P.活性を定量化し、構造一活性相関を確立しようと試みた。in vitro実験に関する限り、テストした錯体全てに強力な抗H.P.活性が確認されたが、配位子の違いや分子構造(固体)の違いによる活性の差は認められなかった。以上の結果から、活性発現に錯体の構造は特に重要なファクターではく、抗H.P.活性はビスマス由来の性質であると結論した。 (2)これらの錯体が実際の潰瘍治療薬として有用であるためには、H.P.菌産ウレアーゼに対して強力な活性阻害能を有する事が要求される。ウレアーゼ阻害活性についてはサンプルごとに顕著な差が認められたが、一般的傾向としてチオレート配位錯体に優れた阻害活性があることが確認された。 2.黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性 H.P.菌に対する結果とは対照的に、黄色ブドウ球菌に対しては各サンプルごとに活性の違いが確認され、チオサリチル酸錯体が最も強い活性を示し、次いでポリアミノカルボン酸系錯体が強い活性を示すことがわかった。これら錯体の水溶液中での錯形成挙動をNMR法(配位子滴定、pH滴定、温度可変測定)により詳細に調べた結果、チオサリチル酸錯体は固体と水溶液中で同じ分子構造を保つことがわかったが、ポリアミノカルボン酸系錯体では固体における分子構造は水溶液中で破壊され、Bi/Ligand比、pH等に依存する複雑な配位子交換反応が存在することがわかった。
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