本研究ではまず始めに高分子複合膜イオン素子におけるイオン輸送ベクトルの光制御の基礎となる正荷電層と負荷電層を張り合わせた構造を有するバイポーライオン素子における多価イオンの輸送と膜荷電構造との関係を検討した。その結果、Ca^<2+>イオンなどの多価カチオンは負荷電層におけるイオンコンダクタンスが高くなるため、その層における濃度降下が最大となり、この層の荷電密度、層厚がイオン素子全体のイオン輸送に大きく影響を与えることが計算機実験において判明した。この結果をポリビニルアルコールを基にして作製したバイポーライオン素子におけるCaCl_2の透過実験から確認した。次にこの結果に基づいて、電解質を駆動力にしたK^+イオンとCa^<2+>の輸送ベクトルと膜構造との関係について検討した。その結果、K^+イオンと、Ca^<2+>イオンがその濃度勾配に逆らって輸送される、いわゆる逆輸送の方向は、駆動力電解質のカチオンとアニオンの移動度比及び、その濃度勾配に対する膜荷電構造の配置により依存することが判明した。つまり正荷電層が高濃度となる系においては駆動力電解質のカチオンに対するアニオンの移動度比が1以下のとき、移動度が減少するとイオン輸送ベクトルは逆転した。また負荷電層が高濃度となる系では、この移動度比が1より大きい場合、イオン輸送ベクトルの逆転現象がみられた。またこれらの現象は負荷電層の荷電密度及び膜厚に大きく依存した。これらの結果より多価イオンを含む多成分イオン系においては、多価イオンと反対符号を有する荷電基の荷電密度が光照射により変化する光応答性膜と、この光応答性膜とは反対符号の荷電を有する荷電膜層により複合荷電膜イオン素子を作製すれば、より顕著なイオン輸送ベクトルの制御が可能であることが判明した。
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