鎖状高分子電解質の無添加塩溶液の還元粘度-濃度曲線は、極低濃度で常に単一の極大を示す。これは、非電解質高分子溶液の場合の様に濃度増大と共に一次関数的に単調増加するのとは異なり、高分子電解質溶液の大きな特徴であり、近年まで大きな未解決問題の一つでもあった。この間題は、最近になってようやく高分子イオン間の静電相互作用でおおむね説明がつくことが分かってきた。しかし、同じく解離基を有するポリスチレンラテックスなどの荷電球状粒子分散液の粘性に関する実験報告例を見ると、その還元粘度-濃度曲線は、鎖状高分子電解質と同様に単一の極大を示す場合もあれば、単調に増加する場合もあり、さらに極大と極小の両方を示す場合など大変複雑な挙動を示す。そのため、荷電鎖と荷電球状粒子の粘性発現の原因を統一的に分子(粒子)間の静電相互作用として理解できるかどうか疑問が残る。本研究では、構造的にはより単純で鎖状高分子電解質のようには形態変化を伴わない荷電球状粒子が、なぜ鎖状高分子電解質より複雑な粘性挙動を示すのかを明らかにし上述の疑問にこたえるのが目的である。 実験報告例および今回行った実験を整理してみると、一粒子あたりの電荷数Zにも若干依存するが、概ね、粒径Dが小さい場合に鎖状高分子電解質と同様の傾向となり、粒径Dが大きくなるにつれて極大と極小の両方を持ち、さらに粒径Dを大きくすると単調に増加するようになる。このことは、粒径Dをパラメーターとして粒子間の静電ポテンシャルから計算した還元粘度η_<inter>/C_pの粒子数濃度C_p依存静でも確かめられた。すなわち、荷電球状粒子分散系の還元粘度挙動が非常に複雑である原因は、粒径すなわち粒子が大きさを持つことによるが、本質は鎖状高分子電解質の場合と同様に分子(粒子)間の静電相互作用によると結論できる。
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