有機電界発光素子をはじめとして、近年、機能性有機材料を用いたデバイスの研究が盛んに進められている。有機デバイスの動作機構を理解し、その性能の向上をはかるには有機物と金属の界面の電子構造及び構造を明らかにすることが重要となる。本研究では、極めて表面敏感な手法である準安定励起原子電子分光(MIES)と紫外光電子分光(UPS)を組み合わせて、(1)直鎖アルカン/金属、(2)セクシチオフェン/金属界面の電子構造と配向を調べた。 (1)直鎖アルカン/金属界面 MIES測定の結果、金、銀、鉛基板上に超高真空下で真空蒸着により作成したTTC(C_<44>H_<90>)超薄膜(膜厚は単分子層程度)では、TTC分子が分子軸を表面に平行にして配向していることがわかった。この配向は、銅等の金属基板上で分子軸が表面に垂直に配向するとする従来の高真空下での実験の報告とは対照的であり、金属表面の清浄度が分子配向を決める重要なパラメーターであることを示している。界面電子構造に関しては、TTC蒸着に伴い0.3(鉛)、0.5(銀)、0.7eV(金)の仕事関数変化が観測された。ともに化学的に不活性な金とアルカンとの界面において0.7eVも仕事関数が変化することは、界面で真空準位の一致を仮定する従来の界面電子構造推定法が妥当でないことを明瞭に示している。 (2)セクシチオフェン/金属界面 有機半導体として注目されているセクシチオフェンの銀、銅基板上の単分子膜の測定を行った。MIESスペクトルではπバンドがσバンドに比べて強調されていることから、セクシチオフェン分子は分子面を基板に平行にして配向していることが示唆された。また、膜厚を増やしていくとπバンドの相対強度が減少することから、多層膜では分子面が表面に対して傾いていると考えられる。また、この系に関しても界面での仕事関数変化が観測された。現在、セクシチオフェン分子と金属表面の相互作用を解明することを目的にして、単分子層以下の膜厚の超薄膜の実験を進めている。
|