本研究では、溶媒和電子が安定に存在する条件を最適化し、かつその溶存濃度並びに分解生成物を定量的に分析する手法を確立することを目的とした。 1.溶媒和電子溶液のキャラクタリゼーション 高純度に精製した有機溶媒を用い、アルゴン雰囲気下でアルカリ金属(0.05-0.2M)を溶解して溶媒和電子溶液を調整した。可視紫外スペクトルでその消滅速度をモニターし、安定化の条件を検討した。室温では金属の溶解と並行して溶媒和電子の分解が起こり、最終的には350nm付近に幅広い吸収を持つ淡黄色溶液となる。その過程で濃い青色の溶媒和電子吸収(800nm)を観測したが、長時間高濃度を達成するに至らなかった。分解反応は溶媒のラジカルアニオンを経てアミンを生成する自己触媒反応と考えられ、その速度論には溶媒中の微量不純物が大きく影響する。 2.今後の研究展開 分解を抑制するため、溶媒蒸留法の改善と低温での測定を試みている。電子消滅に伴う分解生成物をESR、NMRや高速液体クロマトグラフィーなどの手法で詳細に分析する予定である。また本補助金で購入した装置を用いて電気伝導度の濃度・温度依存性を測定し、溶媒和電子、カオチン並びに電子二量体の生成を考慮してコンピューターで解析を行う。さらに、我々が開発した精密カロリメーターを利用して、溶媒和電子溶液と種々の酸化還元系との反応熱を測定し、通常の古典的化学平衡論が成立するか否かを検証することを計画している。
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