チャイニーズハムスターの温度感受性突然変異株(ts株)tsTM4は、非許容温度において姉妹染色分体交換(sister chromatid exchange:SCE)を異常に誘発する。SCEは高等真核生物で観察される体細胞で起こる組換えの1種であり、複製途中に起こる姉妹染色分体間での組換えと考えられてきたが、その意味はいまだ不明である。tsTM4は、SCEを異常に誘発する以外にも、S期で細胞周期を停止し、DNA合成が低下する表現型を示す。このtsTM4の遺伝的欠損を相補するヒト遺伝子は、転写反応の主体をなすRNAポリメラーゼIIlargest subunit(RPIILS)であり、ヒトRPIIKS遺伝子全領域を含むゲノムDNAの導入によって、形質転換細胞は正常は増殖を示し、SCEの誘発は正常レベルに復帰する。また、tsTM4におけるRPIILSの発現は正常細胞のそれと同レベルであることから、機能変異の可能性の1つがRPIILS中のアミノ酸変異であると推定した。そこで、今年度はRT-PCR法を用いてtsTM4よりRPIILSのcDNAを単離、塩基配列の決定を行い、正常RPIILSのcDNA全塩基配列と比較することによって、アミノ酸の変化を伴う塩基置換の変異部位を同定した。この置換が起こったアミノ酸は、ヒトやショウジョウバエ、そして分裂酵母においても保存されていた。 さらに、高等真核生物ゲノムの解析を目的として、ヒトMHCクラスIII遺伝子NOTCH4の塩基配列決定を行い、その遺伝子構造を決定し、ヒトゲノム内の大規模な染色体重複領域を見出した。
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