1996年度は、本研究課題に基づき以下のような研究を行った。 1.年間を通じて、河畔林から河川内に落下供給される無脊椎動物量を、樹冠の被度の異なる4つの河川区間で測定した。その結果、供給量は著しい季節変化を示し、開葉後の6月から増大し8月にピーク(100mg dry mass/m2/day)に達した後、10月以降翌年の4月まではほぼ皆無となった。また、樹冠のよく発達した区間ほど落下量が大きかった。 2.河川内の魚類はこの落下動物を高い頻度で利用しており、とくに盛夏期には全採餌量の60%以上が陸上起源の無脊椎動物であった。また、河川内における落下無脊椎動物の収支はいずれの区間でもほぼ平衡しており、魚類はこの落下昆虫の50-80%を消費していた。 3.盛夏期に河川エンクロージャーを設置し、実験区からの魚類の移出を制御し、さらにビニールハウスを用いて陸上無脊椎動物の河川内への供給を遮断する野外実験を行った。陸上からの落下供給のない区間では、魚類による捕食圧の増大に起因する底性無脊椎動物の現存量の著しい減少と、これに伴う付着藻類量の増大が確認された。すなわち、自然条件下では、落下動物の供給が河川内の食物網における捕食者-被食者関係を緩和し、低次の栄養段階にある生物の群集の挙動に影響していたと結論づけられる。 4.一方、魚類の移出入を制御しなかった場合には、落下動物の遮断を行った区間では魚類の移出が増大し、明瞭な現存量の低下が起こった。 5.これらの結果から、河畔の森林から落下供給される陸生無脊椎動物は、特に夏季においては、河川生態系の食物網の動態に強い影響を与えていることが明らかになった。
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