托卵鳥とその宿主の関係における進化生態学的な問題について数理モデルを用いた研究を行った。托卵されたあるホスト集団は、托卵鳥(パラサイト)の卵を認識して排除する托卵対抗手段をとることが野外研究によって明らかなっているが、托卵対抗手段の確立度はホスト集団ごとに異なっており、この事実に対する明確な説明はなされていなかった。本研究は、托卵鳥が同時に複数の種類のホスト集団に托卵する系(Generalist系)について、托卵対抗手段がそれぞれのホスト集団中でどのように確立されるのかについての数理モデルを組み立て、モデル解析を通じて現実に対する新たな視点を見出すことを目的とした。本研究により明らかになった点は以下の通りである。 1.托卵鳥コウウチョウに托卵されるホストは、托卵対抗手段を殆ど行わないAccepter speciesと、ほぼ完璧な托卵対抗手段をみせるRejecter speciesに分類されることが野外研究から明らかにされているが、このような極端な2分化は、コウウチョウの繁殖戦略-Generalistによって引き起こされている可能性が高い。 2.托卵されながらも托卵対抗手段を行わないAccepter speciesは、対抗手段が突然変異として出現すればRejecter speciesになるという説(Evolutionary Lag説)がある。これに対し、モデル解析から、Accepter speciesの存在は進化的に安定であり、2局化した托卵対抗手段の確立度分布は安定である可能性(Evolutionary Equilibrium説)が示された。この場合、Accepter speciesとRejecter speicesの間には、集団サイズの大きさなどの測定可能な量に違いがあり、これを測定することによって2つの説のどちらがより適切であるかが検討可能である。
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