本研究の目的は光合成を制御する主要な環境要因である光と湿度が誘導状態に及ぼす影響を調べ、光合成融導状態の生理生態学的意義を明らかにすることである。そこで、熱帯稚樹のShorea macropteraと温帯稚樹のシラカシ(Quercus myrsinaefolia)を主な材料として以下の実験を行った。1.同化箱内の相対湿度と光強度を変化させ、人工気象室で栽培した稚樹の光合成誘導反応を測定した。2.熱帯林林床の光と湿度環境下で林床に生育する稚樹について、約3秒の間隔で光合成の日変化を連続測定し、光合成誘導反応の特性についての検討を行った。実験1により、比較的乾燥した(相対湿度45%前後)条件と比べ、湿潤な(相対湿度85%前後)条件下では、1時間以上の光合成誘導反応を経過した葉は、定常状態での光合成速度が高く、気孔コンダクタンスと蒸散速度も高いこと、また、光量子密度を50から500μmolm^<-2>s^<-1>まで上昇させた場合、相対湿度が高い場合に、明らかに光合成誘導反応速度が高いこと、さらに、このような高い湿度での光合成誘導反応が速くなることは、気孔コンダクタンスの増加によるものであることが明らかになった。実験2より、熱帯林林床の高い空気湿度は、稚樹の光合成誘導反応を加速し、変動する光環境下での光利用効率を増加させることが明らかになった。また、ギャップ(倒木などによって形成された林冠の隙間)環境下で生育する稚樹は、林床で生育する稚樹と比べて、光利用効率に対する湿度の影響が比較的少ないことも示唆された。異なる湿度条件下での光合成誘導反応速度は熱帯と温帯稚樹の間で明瞭な違いが認めなかったが、変動する光環境下では光合成炭素同化量と水利用効率は、種によって明らかに異なることが示唆された。
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