タバコ培養細胞で発現するキネシン様蛋白質TBK5とTBK10の全長をコードするcDNAをクローニングし、配列決定を行ない、さらに各蛋白質の性質、細胞内局在を解析した。TBK5とTBK10は、それぞれ633残基と703残基のアミノ酸からなり、共にキネシン様のモータードメインを中央領域をもつことが推定された。TBK10のモータードメインのアミノ酸配列はそれらのキネシン様蛋白質のモータードメインのアミノ酸配列に対して高い相同性を示す。一方、TBK5のモータードメインのアミノ酸配列は既知のキネシン様蛋白質のモータードメインのアミノ酸配列に対して高い相同性を示さず、いずれのサブファミリーにも属さないことが分かった。微小管に結合したTBK5は、ATP存在下でも微小管から解離しない性質をもつことが微小管共沈澱法を用いた実験により明らかになった。TBK5のモータードメインが他のキネシン様蛋白質のモータードメインにはない特異な性質をもつ可能性やモータードメイン以外のドメインがATP感受性をもたない微小管結合部位を含む可能性が考えられる。ポリクローナル抗体を用いた間接蛍光抗体法観察によって、BY-2細胞におけるTBK5とTBK10の局在を調べた結果、TBK5は、間期の細胞表層微小管、前期前微小管束、分裂期の紡錘体微小管、隔膜形成体微小管と細胞内局在を共にすることが明らかになった。一方、TBK10は微小管とは共存せず、円盤状の細胞小器官に局在することが分った。植物細胞における細胞小器官の輸送、局在化には、ミオシンが働くことが古くから知られているがTBK10が細胞小器官に局在することは、微小管モーターも細胞小器官の輸送や局在化に関わる可能性を示している。本年度の解析結果は、TBK5とTBK10がともに植物微小管の機能発現(細胞形態形成、分裂面制御等)に関わる新規モーター分子であることを示している。
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