高等植物の花粉内に存在する雄性配偶子細胞の核は、動物の精子核同様、高度な凝縮型である。これまでに、申請者らはユリの雄性配偶子核に特異的に存在する3種のヒストン様核タンパク質を見いだした。これらの核タンパク質は雄性配偶子の分化に重要な働きをもつと予想しており、本申請研究では、これらの核タンパク質をコードする遺伝子(cDNA)を単離し、それらの一次構造を明らかにすることを主目的とした。さらに、雄性配偶子の分化過程におけるこれらの遺伝子の発現量をノーザン法で解析した。 まず、花粉の全RNAからポリ(A)^+RNAを精製した後、発現ベクターλgt11をもちいてcDNAライブラリーを構築した。そして、それぞれの核タンパク質に対する抗血清によってポジティブクローンを選抜し、それらの塩基配列を決定した。得られたクローンの塩基配列から推定されるアミノ酸配列は、それぞれのタンパク質のN末端あるいは内部のアミノ酸配列解析の結果と一致したため、これらをコードするcDNAであると結論した。ホモロジー検索の結果、これら3種のクローンは、既知の塩基配列と顕著な相同性はなかったが、体細胞型コアヒストン(3種の核タンパク質のうち、p18.5はH2A、p22.5はH2B、p21はH3)と塩基レベルでそれぞれ50%前後、アミノ酸レベルでそれぞれ約40〜50%の相同性があった。次に、ユリの各花粉発生過程のステージの花粉から全RNAを抽出・精製し、それぞれのcDNAをプローブとして、ノーザン解析をおこなった。その結果、3種の遺伝子とも雄性配偶子分化の初期から中期で発現し始め、その発現量は分化にともない増加し、調査したステージ中では開花後の成熟花粉で最大であった。 以上の結果から、これら3種の核タンパク質は、体細胞型ヒストンとは顕著に異なる新規のヒストン変種であり、雄性配偶子分化の中期から後期で機能することが示唆された。
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